第一章 終わりと始まり ―T―
太陽が高く上がるお昼時。
スプラという森に囲まれた村のある食堂で一人の青年が働いていた。拭いていた真っ白な皿は、地面に綺麗に半分に割れる。地面には他にも割れた硝子の破片が落ちていた。
「ハァ・・・後で親父さんに謝らなきゃ。」
週十枚くらい重ねられた皿の一番上のやつを取ろうとした瞬間、食堂の裏口が乱暴に開かれる。ビクッとし、振り返るとそこには体格の良い食堂の主人と、その後ろでビクビクしているその主人の娘がいた。主人の方は腕を組み、笑っていた―今にも暴れ出しそうだったが堪えている様子だった。
「バイト…」
「な、何でしょうか。」
「今ので何枚目だ…皿を割るの。」
「2枚…いや、20枚ですかね。」
笑って誤魔化す。主人もガハハと笑うが、どうみても目が怖い。後ろに立っている娘も余計にビクビクしていた。
「あと少しで全部終わりますから・・・」
主人は何も言わず、店の中に戻ってある物を持って戻ってきた。背筋がぞくっとし、主人に目を戻す。
「何を・・・持ってイラッシャル?」
「シシアは中に入ってなさい。」
「・・・は、はい!」
主人は優しい笑顔で娘・シシアを食堂内に行かせると、鬼のような形相である物―主人と同じように大きな斧を軽々と担ぎにらむ。
「今から貴様をこの斧でブッタ斬って、モンスターの餌にしてやる。」
「あの、親父さんが言うと冗談に聞こえない―」
「本気だ。何枚も何枚もウチの皿を割りおって―貴様なんか、クビだァァァーーー!!!」
「うぎゃぁぁぁーーー!!!」
ドガッと主人は斧を、振り下ろすがすでにそこにバイトの姿はなかった。ギョロギョロと辺りを見回すが、何処にも姿が見えなかった。主人は「よっこいせ」と斧を担ぎなおすと、腰を押さえる。
「イテテ、少しやりすぎたかな。」
「アンターーー!この忙しい時に何処で何サボってんのよ!!!」
「ゲッ…今行きます!!」
主人よりも怖い妻に呼ばれ、主人は少し駆け足で食堂に戻っていった。
今回は最高新記録―3日でクビ。
主人のいなくなった食堂の裏で、ハァと重い溜息が聞こえた。溜息をした本人は、すぐ近くの木の上にいた。彼の名は銀(ギン)。先程、この食堂のバイトをクビになってしまった。このバイトの3日間で、何枚皿を割ったか正直覚えていない。今までやってきたバイトは全て一週間くらいでクビになっている。ある意味、凄い男。本人は一生懸命やっているのだがどうしても失敗してしまう。
「どうしよう荷物。二階に置きっぱなしなんだよな・・・」
だが今中に入ると、また主人の斧が襲ってきそうで危険過ぎる。だからと言って荷物を置いていくコトなど出来ない。荷物の中には色々大切なものが入っている。
「よし、仕方ない。」
銀は軽々と木の上まで上ると、食堂の二回のベランダに飛び移る。元盗賊の銀にとってこんなことは朝飯前。閉まっているドアの鍵に少し細工すると、開いてしまう。部屋の隅には銀の荷物がポツンと置いてあった。小さなバッグをベルトの後ろにつけ、古そうなダガーを二つ、ベルトの左右に括り付けた。それが終わると部屋を出て、食堂の裏に戻る。
「3日間だけだけど、ありがとうございました。」
本当は店の主人に言いたかったが、会ったら危険なのでその場で言って銀は何処かへ行こうと―
「待って、お兄ちゃん!」
銀を呼び止めたのは、食堂の主人の娘・シシアだった。何かを抱えて銀の元へ駆け寄る。
「お兄ちゃん、お仕事止めさせられちゃってでしょ?だからシシア、お弁当作ってきたの。」
そう言って、小さな包みを渡した。中を見ると少し形が変なおにぎりが二つ入っていた。
「ありがとう、シシア。」
「ううん。お兄ちゃん、また来てね。」
「うん、分かった。じゃあね、シシア。」
シシアに見送られながら、銀はその場所から去った。何処へ行くでもなくただ適当に下を向きながら歩いていた。
「仕事、落ちてないかな・・・」
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